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最高裁判所第一小法廷 昭和30年(あ)2615号 判決 1957年2月14日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人大脇英夫の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張を出でないものであって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(なお、法令違反、事実誤認の主張が職権事由としても採用できないことについては、重富弁護人の上告趣意第一、二点についての説明参照)。

弁護人佐藤秀直の上告趣意中判例違反をいう点は、所論引用の当裁判所の判例は、犯罪行為に供した船舶の没収の時期に関するもので、本件に適切でないから、その前提を欠くものであり、その余は、単なる法令違反(共犯者から船舶の価格を各別に追徴しても差支ないことはいうまでもないし、また、かかる場合に共犯者の全員に対し重複してその全部につき執行することが許されるわけではなく、その中一人に対し全部の執行が了れば、他の者に対しては執行し得ないことは、当法廷の判例とするところである。判例集九巻一三号二六〇八頁以下参照)、量刑不当の主張であって、いずれも、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

弁護人重富義男の上告趣意第一点、第二点について。

関税法旧八三条(本件では昭和二三年七月七日法律一〇七号による改正のもの)にいわゆる原価は、同法七四条、七五条又は七六条中の輸入又は逋脱に関する犯罪に係る物の場合と同法七六条中の輸出に関する犯罪に係る物の場合と異るものである。いずれの場合でも、その物の具体的取引価格又は一般経済界における通俗の意味の「原価」とその観念を異にするものであることは、原判決説示のとおりであるが、先ず後者、すなわち、輸出原価についていえば、それは、いわゆるF・O・B・価格を指すものであって、当該貨物と同種同質の物の国内における卸売価格と輸出港における船積までの一切の費用(運送費用、保管料、積込費用等)を合算した抽象的価格をいうものである。されば、所論引用の札幌高等裁判所の判例の採るを得ないこと論を待たない。従って、この判例を前提とする所論も採るを得ない。また、原判決のいう輸出港における一般的価格とは、何を指すものであるか明らかではないが、輸出港における通常卸売の方法により包括的に売捌きうる業態における一般的価格なるものが、前示の一切の費用をも見込み取引される価格であるとすれば、原判決の説示は正当であるといえるが、若しもそうでないとすれば、原判決の判示はその点で失当であるといわなければならない。しかし、原判決の是認した第一審判決が証拠として採用した大蔵技官高松一作成の鑑定書、大蔵事務官松浦英彰作成の鑑定嘱託書は、第一審の弁護人がこれを証拠とすることに同意したものであって、これによれば、右鑑定書記載の原価は、本件輸出貨物の犯行当時におけるF・O・B・価格を鑑定したものであること明らかであり、第一審判決は、これを採用して判示輸出貨物の原価を認定し、原判決もこれを是認したものであることを認めることができるから、仮りに原判決の前記判示が失当であるとしても、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。

次に、前者、すなわち、輸入原価とは既に昭和一一年一二月一四日大審院が関税法旧七五条但書にいわゆる原価につき判示したごとく(判例集一五巻一六四頁以下参照)、輸入の際における(単なる到着の時ではなく、実際輸入手続をした時)抽象的な到着価格をいうものであって、その価格の認定に当っては、通常は正当に作成されたと認められる仕入書(インボイス)に表示されたC・I・F・価格すなわち、生産地若しくは仕入地における原価に荷造費、保険料、運送費その他輸入港に到着するまでの諸費を加えた価格によるべきであるが、これによること困難であるときは、同種、同質の物品の国内における市場価格から関税その他の通常の諸費用を控除する等適正と認められる価格によるを相当とするものであるこというまでもない。そして、原判決のいわゆる輸入港における一般価格とは何を指すものであるか明らかでないこと前述の輸出の場合と同様であるが、右に述べた当裁判所の判旨に合致しない点は失当としなければならない。しかし、前示の鑑定書、鑑定嘱託書によれば、その鑑定書に記載の原価は、本件輸入貨物の犯行当時におけるC・I・F・価格を鑑定したものであること明らかであり、第一審判決は、これを採用して判示輸入貨物の原価を認定し、原判決もこれを是認したものであることを認めることができるから、この点においても原判決を破棄しなければならないものとは認められない。されば、論旨第一点の判例違反の主張は採ることができないし、また、論旨第二点の訴訟法違反の主張は、職権事由としても採用できない。

同第三点について。

所論は、単なる法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(なお、原判決は、被告人が本件犯行当時本件第一喜久丸を河井一政名義で所有していたが、その後小川トシに売渡し、さらに朴性模外一名に対する借財の代物弁済に充て、その後さらに二名に転々売渡されついに同船は朽廃した経緯を判示し、被告人が二重に処分したときにこれを没収することができなくなった旨認めこれを理由として同船の価格を被告人から追徴すべきものとし結局これと同一措置に出た第一審判決を是認したものである。そして、原判決の右の説示によれば、被告人は右二重処分のとき同船の所有権を喪失すると同時にその価格に相当する利益を取得したものであるから、原判決の判示は正当であって、所論の違法は認められない。)

よって、刑訴四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 真野毅 裁判官 入江俊郎)

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